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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)127号 判決

新潟市鳥屋野四丁目一九番一号

上告人

乙川博

右訴訟代理人弁護士

諸永芳春

伊達俊二

細矢眞史

新潟市営所通二番町六九二番地五

被上告人

新潟税務署長 佐野榮偉

右指定代理人

小沢満寿男

右当事者間の東京高等裁判所平成五年(行コ)第七四号所得税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成六年三月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人諸永芳春、同伊達俊二、同細矢眞史の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程にも所論の違法はない。論旨は、原判決を正解しないで、又は独自の見解に立って原判決を論難するか、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野幹雄 裁判官 大堀誠一 裁判官 三好達 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

(平成六年(行ツ)第一二七号 上告人 乙川博)

上告代理人諸永芳春、同伊達俊二、同細矢眞史の上告理由

第一 原判決の判断には憲法解釈の誤り及び法令違背があり、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 原判決の判断違背について

1 推計の必要性の不存在

(一)まず、推計の必要性は推計課税の適法要件の一となると解すべきである。

なるほどこの点、所得税法一五六条には特段の明文規定は置かれていない。

しかし、課税は実額によることが原則であり、できるだけ実額を把握した上で課税がなされるべきであるから、推計課税をなしうるのは帳簿書類等を備え付けておらず、収支の状況を明らかにできないなど、一定の条件にある時にのみ限られなければならない。

この点、例えば、本来課税処分取消訴訟の主たる審理の対象は、認定に係る課税標準及び税額の多寡であり、また、実額課税と推計課税の差異は、直接証拠によるか間接証拠によるかの事実認定の方法の差異にすぎないのであって、自由心証の問題であり、いかなる場合に推計課税を選択するかは税務署長の裁量事項に属し、必要性は推計課税の一指針にとどまるから、たとえ必要性がなくても、推計による課税額が実額の範囲内にある限り、当該課税処分は何ら違法ではない、とする見解がある。

また他にも、推計課税の必要性は、原則として、課税処分の適法要件をなすが、推計による認定額が実額の範囲内にあることが認定された場合には、必要性の欠缺という手続上の瑕疵は事実的、相対的に軽微なものとなり、その限度で右適法要件の欠缺は違法事由とはならないとする見解もある。

しかし、一旦推計課税の方法により課税額が決定されその税額の金員の付が行なわれれば、例え後の訴訟で当該推計課税の方法による課税額が実額の範囲内にないことが立証され推計課税の違法性が明らかとなったとしても、一旦納付の責めを負った納税者の経済的負担は大きく、訴訟遂行の重圧も多大であることは改めて示すまでもない。

のみならず、推計の必要性要件を不要と解するときは、納税義務者から、帳簿の作成、備付義務の励行意識を奪い、ひいては適正かつ円滑な課税行政の根本を損なう虞なしとしない。

以上の考察によれば、所得税法一五六条において、推計の必要性が推計課税の適法要件の一となると解すべきである(東京地判昭和四八・三・二二行集二四巻三号一七七頁、福岡地判昭和四九・三・三〇訟月二〇巻七号一五二頁、大阪地判昭和五〇・四・四行集二六巻四号四九二頁等)。

(二)そこで、上告人は原審において、「昭和五五年、五六年の各年分の飲食業による所得についての控訴人の実額主張について」と題して、第一審が、右に関する上告人の主張に係る営業利益の算定根拠となった損益計算書(乙一の六)についてその信用性を認めず、その理由として、右損益計算書の記載が上告人経営の飲食店の従業員が記帳していたノートに基づいてなされていたが、右ノートの所在が不明であり、損益計算書の記載内容の正確性を確認し得ないからであるとした(七六丁裏)判断が不当であることを指摘した。

すなわち、上告人は、「右損益計算書の記載が上告人経営の飲食店の従業員が記帳していたノートに基づいてなされていた」との事実は、それ自体、右損益計算書が客観的資料に基づいて作成され、その記載の正確性を信用しうるものであることを推認させるに足りる事実であること、従って、第一審において、右信用性を積極的に喪失させるべき事情についての立証がなされていない以上、右損益計算書の信用性は証明されたというべきであり、右ノートの所在不明という事実は、右損益計算書の信用性を喪失させるべき事情とはいえないことの陳述をなした。

以上によれば、上告人の飲食業のうち昭和五五年、昭和五六年分にかかる所得については、実額による営業利益の算定が可能であり、推計の必要性が認められないことになる。

(三)しかるに、原審は右の上告人の主張に対し何ら積極的判断を示していない。単に第一審の判決の理由と同様であることを述べるに過ぎない。

(四)従って、上告人が原審において、推計課税の必要性の要件の有無を判断するに不可欠である帳簿種類(損益計算書)の信用性に関する事実認定の問題性を指摘したのに対し、これに対する判断を何ら示さなかったのは、原審が、そもそもその前提として、推計課税の必要性を推計課税の適法要件とする見解を採用しなかったことによるものと判断されるのである。

そうであるとすれば、原判決の右に関する判断は、まさに所得税法一五六条に反するものであり、ひいては、憲法三〇条(租税法律主義)に反すると言わなければならない。

(五)そして、推計の必要性の要件を欠く以上、上告人の所得は実額によって算定されなければならない。

上記の損益計算書によれば、昭和五五年五六年分の飲食業による上告人の営業利益はいずれも赤字であり、所得は生じていない。

従って、推計の必要性の要件に関する原審の判断における憲法解釈の誤り、法令違背は、判決に影響を及ぼすこと明かである。

(六)なお、原審は、第一審判決の七四枚目裏四行目行頭に、実額反証が抗弁に対する反証ではなく再抗弁である旨の判示を付加している。

前後の文脈からすれば、上告人の右(一)の主張をもって実額反証と捉え、これを再抗弁と判断したものと考えられる。

しかしこれは誤解である。上告人の右主張は、被上告人が抗弁として主張立証責任を負うところの推計課税の必要性の要件の欠缺を問題とするものであるからである。

すなわち、推計課税の必要性とは、〈1〉納税義務者が収支を明らかにする帳簿書類を備え付けていないこと、〈2〉帳簿書類の備え付けがあっても、その記載内容が不正確であること、〈3〉納税義務者が税務署長の行なう税務調査に非協力的であること等により実額の把握が不可能又は著しく困難なこと、の三要件すべてを満たすことをいうと解され、いずれも被上告人の主張立証責任に属する事柄である。

そして、処分時に右要件を欠く課税処分は、手続上の適法要件を具備しないものとして違法であると解するのが判例の多数であるとされる(東京地判昭和四八年三月二二日行集二四巻三号一七七頁、福岡地判昭和四九年三月三〇日訟月二〇巻七号一五二頁、大阪高判昭和五一年六月三〇日行集二七巻六号九六五頁)。

さて、上告人の右主張は、右の必要性の〈2〉の要件が立証不十分であることを指摘したものである。抗弁の立証そのものを問題としているのであり、仮に実額反証が再抗弁であるとしてもその前提問題であることをここで強調する。

2 推計合理性に関わる平均所得率算定の方法の法令違背もしくは経験法則違背について

(一)そもそも推計課税をなすためには、推計の必要性のみならず、推計の合理性もまたその要件の一となると解すべきである。

推計の合理性の内容として解釈上いくつかの点が指摘されているが、その中で重要な争点となりうるのが、具体的な推計方法自体が出来るだけ真実の所得に近似した数値が算出され得るような客観的なものであること、という要件である。

したがって、例えば同業者率を用いる場合にはその比率が適正であることが担保されていることが必要であると解されている。

これを細分化すれば、

〈1〉 同業者抽出基準の合理性として、同業者の類似性(業種・業態の同一性、法人・個人の別の同一性、事業所の近接性、事業規模の近似性)及び資料の正確性(同業者は青色申告者又は税務署長が申告を是認している者であること、一定期間同種事業を継続していること、申告が確定していること)

〈2〉 抽出過程の合理性として、抽出過程について課税庁の思惑や恣意の介在する余地のないこと

〈3〉 比準同業者数(選定件数)の合理性

〈4〉 同業者率の内容の合理性

等に分けて考えることが出来る。

このような基準は、「その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模」をもって推計方法を定めることを規定した所得税法一五六条の法意を具体化したものと言える。

以上の前提に立って、本件における同業者率の算定が法令に違背しもしくは経験法則に違背することを以下に指摘する。

(二)昭和五四年、五五年、五六年の各年分における建築、賃貸業に関する平均所得率算定方法について。

原審が引用する第一審判決が認定する同業者選定基準は、畢竟、年間売上金額が三億円以上一〇億円未満の木造建築業者一般というに等しい。

この方法は、そもそも年間売上金額によって規定した事業規模の幅が広きに失する他、木造建築専業か否か、営業開始からの経過年数、従業員数等の要素が排除されている点の問題性が大である。実例として、縫製加工業者について、収入金額の他、家族従業員、雇人、外注先の件数、機械の所有台数、作業面積等において類似する者を抽出した事例(岡山地判昭和六一年一一月二六日税資一五四号六五一頁)が存在することに特に留意がなされるべきである。また、大阪高判昭和五〇年五月二七日(行集二六巻五号七七九頁)は、納税者と対比すべき同業者の事業規模は、納税者のそれを細部の点に至るまで完全に一致する必要はない、としながら、その主要な点においての類似性は要求している。

更に言えば、根本的な問題点として、選定された事業者がすべて法人事業者であり、上告人と同じ個人事業者に該当者がいないという点を指摘する必要がある。

したがって、実際に選定された同業者の所得率の幅は大きく、各年分とも、下はマイナス値、上はプラスで一〇パーセントを超え、しかもその間のばらつきが激しい。これらの数字の間には、何ら有意的な所得率の傾向は見出せない。そうである以上、それらの所得率の平均を単純に求めても単なる数字上のものでしかなく、到底合理的な推計方法とはいえないことは、既に原審で強調してきたとおりである。

ここでは、上述の基準〈4〉「同業者率の内容の合理性」の要件の欠如が指摘される。

しかも、元請、下請、孫請のいずれの位置における業者であるかの区別もない。

受注先中の公共事業の割合も区別されていない。

以上よりすれば、原審が引用する第一審判決が採用する同業者比率は、単に同業者であるという以外、類似した所得率を生み出す共通点を何ら有しない各業者の所得率を単純に平均した数字という以上の何ものでもない。

そして、このような同業者の抽出方法は、「その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模」をもって推計方法を定めることを規定した所得税法一五六条の明文に反する。何となれば、原審判示の同業者選定方法は、「その者の財産若しくは債務の増減の状況」を無視し、「収入若しくは支出の状況」、「生産量、販売量その他の取扱量」、「従業員数」をいずれも顧みず、唯一法定の基準に合致する「事業の規模」も、「年間売上金額が三億円以上一〇億円未満」という極めて広範な基準に止まるからである。

これは、上述の基準「〈1〉同業者の抽出基準の合理性」の内、同業者の類似性の要件を実質的に満たさないものである。

そしてまた、そもそも、同業者の範囲を新潟税務署管内に事業所を有している業者に限定したこと自体に問題がある。

「事業所の近接性」を理由とするのであれば、少なくとも所得率の相違を合理的に導くに足りるだけの、中部地方における木造建築業の各県別の個別的事情についての判断が示される必要があるが、原審判決の理由中には右に関する判断は全く示されていない。

したがって、基準自体に合理的絞り込みを加えた上で、当該基準に合致する他府県の同業者を選定することにより合理的に平均的所得率を算出することが可能であることからすれば、同業者の範囲を新潟税務署管内に事業所を有している業者に限定したこともまた、所得税法一五六条に反するものと言うほかない。

(三)昭和五四年、五五年、五六年の各年分における生コン圧送業

この場合には、同業者選定基準の曖昧さ、意味のない包括性は更に極端である。

ここでは、右(一)において唯一有意的であった年間売上高による事業規模の限定という枠すらも除外されているからである。

したがって、上述の基準「〈1〉同業者の抽出基準の合理性」の内、同業者の類似性の要件を形式的にも実質的にも満たさないものというほかはない。

右基準の機能不全は、選定された同業者の所得率の上下の幅が、昭和五四年分は下六・〇三パーセント、上は二七・一一パーセント、昭和五五年、五六年は下はいずれもマイナス値、上は二〇パーセントを超えており、その間のばらつきは激しいことに端的に現われている。ここには、所得率の有意的、一般的傾向は見出されない。

それらの数値の平均を単純に求めても、それは単なる数字という以上のものではない。

上述の基準〈4〉「同業者率の内容の合理性」の要件の欠如が指摘される。

右の原因もまた、上記建築業の場合と同様に、生コン圧送業を営む業者の中から、控訴人と業態その他において共通点を有する同業者を合理的に選定する基準を設けなかったことによるものである。特に、年間売上金額を全く限定しなかったこと、選定された者がすべて法人事業者であり、個人事業者に該当者がいないという点は不合理である。

なお、ここでは、同業者の範囲は新潟税務署管内に限定されず、他六カ所の税務署の管内に事業所を有している業者にまで拡張されている。

しかし、被上告人が第一審において、新潟県内の下越地区と中越地区との生コン圧送業者の間でおいて所得率を同列に論じることを妨げないと主張するごとく、生コン圧送業という業態においては地域の特殊性はさほど見出せないのであって、「事業所の近似性」に拘泥する理由はない。

より合理的な基準の下で、より広範な範囲の地方に事業所を有する個人事業者について同業者を選定すべきである。本件におけるような極めて包括的、一般的な選定基準を採用した場合には、本件程度の同業者数では少なきに失する。より広範な範囲からより多数の同業者を求めるか、さもなければ、より合理的な同業者選定基準を設けるべきであった。

選定された同業者の数(昭和五四年分が六名、昭和五五年分が七名、昭和五六年分が八名)も過少である。この点、「同業者の類似性の程度については、常に抽出される同業者の件数と相関的に捉えられることが必要で(あり)、選定同業者数がきん少であれば、ある程度厳格な類似性が要求され(る)が、選定同業者数が比較的多く、当該数値が平均値としての価値が高い場合には、個別的差異はこれに包摂され、平均化されているとみてよい…から、類似性の程度はさほど厳格なものまで要求されない」(「税務訴訟入門」初判、一五九頁)と解するのが一般であるから、本件における右のような過少な同業者数の場合に、「ある程度厳格な類似性」を欠く以上、合理性を欠く選定方法であったということになる。

よって、上述の基準〈3〉「比準同業者数(選定件数)の合理性」を欠く結果となった。

以上よりすれば、昭和五四年、五五年、五六年の各年分における生コン圧送業に関する同業者選定もまた、所得税法一五六条に反するものと言うほかない。

(四)猶お付言すれば、本件において、上告人は右の各同業者選定基準に関し、その合理性の欠缺に関して、右の合理性の欠缺を基礎づける事実につき積極的に反証を行なうことを要する、あるいは、他の同業者の平均より格段に営業状態が悪くなる筈であるという営業条件の劣悪性に関する特殊事情を積極的に主張、立証する義務がある、とは解すべきではない。

なぜなら、被上告人が抗弁として主張、立証すべきである推計課税の合理性自体が、本件では十分に主張、立証されていないからである。あるいは、本件において算定された同業者の所得率が適正であることを基礎づける何らかの事実を主張、立証すべきであった。 したがって、本件においては、被上告人の抗弁自体の主張、立証が失当である。

もとより、仮に「実額反証」が再抗弁に分類されるとしても、ここで問題としているのは「実額反証」ではない。

にもかかわらず、右抗弁の主張、立証を十分なものと認めた第一審及びこれを引用した原審の判断には、法令違反もしくは経験法則違背がある。

3 以上のとおり、推計の必要性、合理性の欠缺は判決に影響を及ぼすものである。

二 原判決の事実認定の経験法則違背について

1 収入金額算定の方法の経験法則違背について

(一)上告人は原審において、被上告人が採用した上告人の収入算定の方法、中でも特に、上告人の昭和五四年、五五年、五六年の各年分の建築、賃貸業及び生コン圧送業に関する各収入とされた金額について、上告人の特定の銀行預金口座への入金の事実のみをもって右の収入と判断した事実認定の方法が、通常一般の取引の実状との間に懸隔があり甚だ経験法則に反するとの主張をしてきた。

(二)即ち、

〈1〉 昭和五四年の建築、賃貸業分につき、

・別表1の1の順号6記載の収入金額

・別表1の1の順号10記載の収入金額

・別表1の2の順号29記載の収入金額

・別表1の2の順号37記載の収入金額

・別表1の2の順号39記載の収入先電報電話局に係る一〇万六二四〇円

・別表1の2の順号46記載の収入金額

・別表1の3の順号54記載の収入金額

・別表1の3の順号60記載の収入金額

・別表1の3の順号70記載の収入先古山哲治に係る二〇〇万円

の各々の収入金額の算定方法には後記の経験法則違反があり、原審はこの点に関する第一審判決の理由をそのまま引用するから、原審の右事実認定の方法には経験法則違反がある。

そこで右の各金額を上告人の収入金額から除外すると、本件帳簿に記載された収入金額四億九七〇四万六一九九円と本件帳簿に記載のない収入金額のうち六〇五四万五〇〇〇円を合計した五億九四五四万八六二〇円が、昭和五四年の上告人の建築、賃貸業に係る収入金額となる。

〈2〉 昭和五四年の生コン圧送業分につき、

・別表2の4の「原告の認否」欄が「否認」のものの合計六八九万八〇四一円

につき、第一審が上告人の生コン圧送業に係る収入金額であると推認したことには後記の経験法則違反があり、原審はこの点に関する第一審判決の理由をそのまま引用するから、原審の右事実認定の方法には経験法則違反がある。

そこで、右金額を上告人の収入金額から除外すると、昭和五四年の控訴人の生コン圧送業に係る収入金額は、合計七〇二九万六六四一円となる。

〈3〉 昭和五五年建築、賃貸業分につき、

・別表1の4の順号1記載の収入金額

・別表1の4の順号6記載の収入金額

・別表1の4の順号18記載の収入金額

・別表1の4の順号21記載の収入金額

・別表1の5の順号36記載の収入金額

・別表1の5の順号45記載の収入金額

・別表1の5の順号46記載の収入金額

・別表1の5の順号47記載の収入金額

・別表1の6の順号51記載の収入金額

・別表1の6の順号52記載の収入金額

・別表1の6の順号53記載の収入金額

・別表1の6の順号54記載の収入金額

・別表1の6の順号58記載の収入金額

の各々の収入金額の算定方法には後記の経験法則違反があり、原審はこの点に関する第一審判決の理由をそのまま引用するから、原審の右事実認定の方法には経験法則違反がある。

そこで右の各金額を上告人の収入金額から除外すると、本件帳簿に記載された収入金額五億八八〇九万六四五九円と本件帳簿に記載のない収入金額のうち九六五七万七二二四円を合計した六億八四六七万三六八三円が、昭和五五年の上告人の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。

〈4〉 昭和五五年生コン圧送業分

・株式会社米山工業からの五万六〇〇〇円

・乙八四ないし八七に記載された入金のうち、未だに入金先が解明されていない金額

については、昭和五四年生コン圧送業分と同様の経験法則違反がある。

そこで右の各金額を上告人の収入金額から除外すると、昭和五五年の控訴人の生コン圧送業に係る収入金額は、合計六九六八万九三四〇円である。

〈5〉 昭和五六年建築、賃貸業分

・別表1の7の順号10記載の収入金額

・別表1の7の順号11記載の収入金額

・別表1の7の順号16記載の収入金額

・別表1の7の順号19記載の収入金額

・別表1の7の順号20記載の収入金額

・別表1の7の順号24記載の収入金額

・別表1の8の順号34記載の収入金額

・別表1の8の順号35記載の収入金額

・別表1の8の順号36記載の収入金額

・別表1の8の順号42記載の収入金額

・別表1の8の順号48記載の収入金額

・別表1の8の順号50記載の収入金額

・別表1の9の順号52記載の収入金額

・別表1の9の順号54記載の収入金額

・別表1の9の順号58記載の収入金額

・別表1の9の順号59記載の収入金額

・別表1の9の順号60記載の収入金額

・別表1の9の順号62記載の収入金額

・別表1の9の順号68記載の収入金額

・別表1の9の順号71記載の収入金額

・別表1の9の順号75記載の収入金額

以上の各々の収入金額の算定方法には後記の経験法則違反があり、原審はこの点に関する第一審判決の理由をそのまま引用するから、原審の右事実認定の方法には経験法則違反がある。

そこで右の各金額を上告人の収入金額から除外すると、本件帳簿に記載されている収入金額五億一九四五万〇七三六円と、本件帳簿に記載のない収入金額のうち一億三四一一万二五三八円を合計した六億五三五六万三二七四円が、昭和五六年の建築、賃貸業に係る収入金額であると認められる。

〈6〉 昭和五六年生コン圧送業分

・有限会社新陽コンクリートポンプからの三〇万円

・有限会社諸橋工務店からの七万五八〇〇円

・乙八四ないし八七に記載された入金のうち、未だに入金先が解明していない金額

右各金額については、昭和五四年生コン圧送業分のところで既に記したのと同様の経験法則違反がある。そこで、右を上告人の昭和五六年生コン圧送業に係る収入金額から除外すると、合計五二九二万〇二七〇円が右収入金額であると認められる。

(三)以上に関する経験法則違反について

第一審及び原審が以上の各金額を上告人のそれぞれの年度及び営業に関する収入金額であると認定したところの理由は、畢竟、上告人名義の、各々の判示の銀行口座に当該金額の入金があったという事実の一点のみにかかる。

しかし、上告人が原審において強く主張したように、それら銀行口座へ入金がなされたという事実は、当該金額が上告人の各営業に係る収入金額であるという蓋然性を、ある程度示すという以上のものではない。

右の各銀行口座への入金の事実のみをもって、当該入金を上告人の各営業に関する収入金額であると断定するためには、その前提として、上告人が、右各銀行口座を当該営業に関する収入の専用口座にしていたという事実が立証されなければならないことは、論を待たない。

しかるに、原審がその理由を引用した第一審判決の理由中には、右事実を認定するに足りる証拠が何ら示されていない。

そもそも、現在の社会において一定の職業を有し、その関係において何らかの対外的的取引関係を有する者においては、複数の金融機関において複数の口座を有することが極めて当然のこととされている。それは、一個の金融機関に対し複数の口座を有する場合をも当然に含む。

その口座の数は小規模の個人営業者であっても数十に及ぶことは何ら珍しいことではなく、上告人のように多数の顧客を相手とする営業者であれば尚更口座の数は多い。

そうである以上、自己の口座の役割を明確に区別して入金を管理する者ばかりでなく、口座の区別につき相当に曖昧な者もまたごく一般に存在する。正に上告人は、真実、銀行口座につきこのような態度をとっていた。

金融機関の口座に関するこのような取り扱い方法の存在は、我々の社会における確固とした経験法則である。

にもかかわらず、原審及び第一審判決は、上告人が、各銀行口座を当該営業に関する収入の「専用」口座にしていたという事実の立証に関して殆どが注意を払わなかった。

これは、経験法則に反する事実認定に他ならない。

(四)原審が引用する第一審判決の事実認定の経験法則違反はこれに止まらない。

・別表1の4の順号1記載の収入金額

・株式会社米山工業からの五万六〇〇〇円

・別表1の7の順号11記載の収入金額

・別表1の7の順号16記載の収入金額

・別表1の7の順号19記載の収入金額

・別表1の8の順号34記載の収入金額

・別表1の8の順号48記載の収入金額

・別表1の9の順号59記載の収入金額

・別表1の9の順号68記載の収入金額

・有限会社新陽コンクリートポンプからの三〇万円

以上の一〇の金額については、判示の銀行口座に対する入金が、判示の入金先からの入金であることを立証する十分な証拠さえ示されていない。

これらにつき、上告人の各営業に関する収入金額であるとした原審及び第一審の事実認定が、経験法則に反するものであることは論を待たない。

2 以上の金額が上告人の収入金額から除外されると、判決に影響が及ぶものである。

第二 原審の手続には法令違背があり、判決に影響を及ぼすことが明らかである。

一 上記「第一 二 1」に関して既に記したように、そこで指摘されている金額を上告人の各営業に関する収入金額であると認定するためには、上告人が、当該各銀行口座を当該営業に関する収入の専用口座にしていたという事実の立証がなければならない。

この点に関し、第一審の証拠中にはこれを立証するに足りる証拠がない。上告人(原告)本人尋問の結果中にも右事実を立証するに足りる証言はなく、そもそも、右事実に関わる尋問自体なされていない。

そこで上告人は、原審において右に関する証言、すなわち、当該各銀行口座を当該営業に関する収入の専用口座にしていたという事実がないことを証言するべく、(控訴人)本人尋問の請求をした。しかるに、原審は必要性なしとしてこれを不採用とする決定をなした。

この原審の訴訟手続は、審理に必要不可欠な証拠を採用しなかったものであるから、民事訴訟法二五九条に反する違法は訴訟手続であり、判決に影響を及ぼすものである。

以上

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